子宮の病気は
どんなものがある?
子宮にみられる病気としては子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などのいわゆる女性3大良性疾患が挙げられ、複数合併している場合もあります。
子宮筋腫
多くの女性に起こる
「子宮筋腫」とは
子宮筋腫は、20~40代の女性に最もよく見られる子宮の良性腫瘍です。
筋腫のできる箇所により、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫の3つに分類されます。
大きさや種類によって症状は異なりますが、月経困難症(月経痛がひどい)、過多月経(生理の量が多い)、過長月経(生理の持続日数が長い)などの月経異常が見られることがあります。
また子宮が変形することで不妊症や流早産のリスクが高まり、子宮が大きくなることで周辺の臓器を圧迫し、便秘や頻尿、骨盤の痛みを引き起こすこともあります。
子宮筋腫のできる場所と
3つの種類
子宮は外側から漿膜(しょうまく)、子宮筋層、子宮内膜という3層構造になっています。子宮筋腫はこの3層のうちどの層に発生するかによって、「漿膜下筋腫」「筋層内筋腫」「粘膜下筋腫」に分けられます。
筋層内筋腫
子宮筋層にできる筋腫で、子宮筋腫の中でもっとも多いタイプです。小さいうちは症状がなく、大きくなると子宮内腔にせり出してくるため、過多月経になることがあります。
漿膜下筋腫
子宮の外側表面を覆う漿膜の内側にできる筋腫で、子宮の外側にコブが生じます。このタイプの筋腫は、子宮内部を圧迫しないため月経異常などの症状が現れにくく、発見されにくいことが特徴です。
しかし筋腫が大きくなった場合は、圧迫症状が出ることがあります。また子宮本体から細い茎で繋がっている有茎性漿膜下筋腫も存在し、まれに茎がねじれると痛みを伴うことがあります。
粘膜下筋腫
子宮の内側を覆う子宮内膜の内側に発生する筋腫です。子宮の内腔に突出するようにコブができるため、小さなものでも月経量が多くなって貧血になるなど、症状が出やすいタイプです。
一部は根本に茎をもつ有茎性粘膜下筋腫となり、これが成長すると、異物を押し出そうとする子宮の働きで、子宮口から飛び出す筋腫分娩になることがあります。
子宮筋腫の症状
(自覚症状)チェック
子宮筋腫の主な症状は、以下の通りです。
- 過多月経や不正性器出血
- 月経困難症
- 不妊症(着床障害)や流産・早産
- 下腹部腫瘍肥大による圧迫感、下腹部痛、便秘、腰痛
- 膀胱圧迫による頻尿、尿管圧迫による水腎症
など
子宮筋腫は自覚症状がない場合も多い
子宮筋腫があっても無症状・無徴候の人も多く、がん検診などでたまたま発見されるケースも多々あります。
日常生活に支障を来していない場合は、必ずしも治療が必要ではありません。
子宮筋腫の原因
現時点では、子宮筋腫の原因は解明されていません。ただし女性ホルモンの活動が盛んな30代から子宮筋腫の診断が増加する傾向があり、閉経後に子宮筋腫が縮小することが観察されています。このことから、女性ホルモンのエストロゲンとの関連が考えられています。
子宮筋腫の治療
子宮筋腫が小さくて、無症状の場合は治療の必要はありません。子宮筋腫が大きい場合や、症状が出ている場合には、手術または薬による治療を行います。
手術(筋腫核手術、
子宮全摘術)
子宮を残す場合、通常は筋腫だけを切除する「筋腫核出術」が選択されますが、子宮を温存できない場合には「子宮摘出術」が行われます。
筋腫核出術では、開腹手術または内視鏡下手術(腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術)が選択されます。
通常、直径が7〜8cm以内で、かつ子宮内腔から離れている場合には腹腔鏡下手術が行われます。
また、直径が小さい粘膜下筋腫の場合には子宮鏡下手術が適用されることもあります。
ただし筋腫が大きい場合や複数ある場合には、開腹手術が検討されます。
ホルモン剤療法
(偽閉経療法)
「GnRHアンタゴニスト」または「アゴニスト」と呼ばれるホルモン剤を使用して、一時的に閉経状態を誘導し、筋腫の縮小を試みる治療方法を「偽閉経療法」と言います。
しかしながら、この治療方法は骨粗しょう症のリスクが高まるため、通常は半年間のみ行われます。
また、治療を中止すると筋腫は元の大きさに戻ることがあります。
この治療は、手術前に行ったり、自然な閉経までのつなぎとして行われたりします。
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜が通常ではない場所で生じ、増殖する状態を指します。
この病気が卵巣内で生じる場合、卵巣嚢腫(のうしゅ)を形成します。チョコレート色の血液が溜まるため「チョコレート嚢腫」とも呼ばれます。
腹膜に生じる場合、卵巣、卵管、腸の癒着を引き起こし、時には不妊の原因となることもあります。
近年、子宮内膜症の発症が増加しており、症状に不安を感じた場合は、できるだけ早く当院にご相談ください。
子宮内膜症の進行による
4つのステージ
子宮内膜症は、通常4段階のステージに分けられます。
ステージ1
「子宮内膜に似た組織」が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所に点在し、成長を始めた状態です。
これらの組織は月経に合わせて剥離し、排出されない組織や血液がその部位に溜まって血腫(血の固まり)を形成します。これが青黒く見えることから、ブルーベリースポットと呼ばれます。自覚症状はほとんどなく、手術や検査中に偶然発見されることが多いです。
ステージ2
点在する「子宮内膜に似た組織」が、増殖と剥離を繰り返すうち、点状だった病巣は大きく広がっていきます。月経時の出血が増えたり、月経痛が強くなったりします。
ステージ3
広がった「子宮内膜に似た組織」が固まり、卵巣や卵管、腹膜などが癒着します。卵巣内で子宮内膜症が増えると、卵巣内部にチョコレート色の血液が溜まる「チョコレート嚢腫」が形成されることがあります。この時期には性交痛が現れることがあり、月経痛も寝込むほどひどくなる人もいます。
ステージ4
癒着が卵管や卵巣、子宮、膀胱や直腸、小腸など骨盤の中にある臓器全体に広がり、時には肺などに発生することもあります。
骨盤の中にある臓器が冷凍されたように一塊になる「凍結骨盤」と呼ばれる状態になることもあります。
腰痛や下腹部の痛みが常にひどくなり、日常生活に支障を来すようになります。
子宮内膜症の症状
(自覚症状)チェック
- 月経を重ねる毎に生理痛や腰痛、骨盤痛が強くなる
- 生理痛だけでなく腰痛や下腹部痛がある
- 排便時や性交時にも痛みがある
など
子宮内膜症の原因
発症原因は明確ではありませんが、月経血が卵管を通じて腹腔内に逆流し、そのまま留まるという説が有力です。また晩婚化や晩産化など、女性のライフスタイルの変化による月経回数の増加が子宮内膜症の増加に関係していると言われています。
月経と同じサイクルで組織の増殖と出血が繰り返されるため、月経回数が増えると子宮内膜症の発症や悪化が起こりやすくなります。
子宮内膜症の治療
薬物療法
鎮痛薬
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェンやナプロキセンなど、痛みを和らげるために使用されます。
ホルモン療法
- 低用量ピル: 月経を調整し、症状を軽減する効果があります。
- プロゲスチン療法: ジエノゲストを含む薬剤を使用します。
- GnRHアゴニストやアンタゴニスト:下垂体からの卵巣刺激ホルモンを低下させることで、エストロゲンの生成を抑制し、子宮内膜症の症状を軽減します。
手術療法
腹腔鏡手術
小さな切開を通じて腹腔鏡を挿入し、病変を切除または焼灼します。
開腹手術
より広範囲な病変を取り除くために使用されることがありますが、回復に時間がかかる場合があります。
生活習慣の改善
食事療法
抗炎症作用のある食事(オメガ3脂肪酸を多く含む食品や野菜、果物など)を心がけるとよいでしょう。
運動
適度な運動は血行を促進し、痛みを軽減する助けになります。
ストレス管理
ストレスは症状を悪化させることがあるため、リラクゼーションやマインドフルネスなどの方法を取り入れると良いでしょう。
子宮腺筋症
30代後半~50代に多い「子宮腺筋症」とは
子宮腺筋症は30代後半から50代にかけて多く見られる疾患で、子宮内膜に似た組織が子宮の筋層内にできる病気です。以前は子宮内膜症と同じ疾患として扱われていましたが、最近では子宮内膜症とは異なる薬物療法の反応を示すことが分かっています。
治療には薬物療法と手術療法があります。
子宮腺筋症の症状
(自覚症状)チェック
- 痛み止めが効かないほど月経痛がひどい
- 月経痛が年々悪化している
- 月経時以外にも腹痛がある
- 月経量が多く貧血になる場合がある
- 肥満でないのにお腹だけぽっこりしている
- 排便時に痛みがある、肛門の奥が痛い
- 妊娠を希望しているが、なかなか叶わない
など
重症化すると足の付け根
などにも痛みが・・・
子宮腺筋症が重症化すると、強い月経痛、月経量の増加(過多月経)、月経時以外の出血などの症状を引き起こします。痛みは下腹部だけでなく、足の付け根や肛門に痛みを感じることもあります。
過多月経は、1回の月経で強い貧血を引き起こすことがあります。
さらに、腺筋症は妊孕性(妊娠する能力)に非常に不利に働き、妊娠しにくく、妊娠しても流産しやすいという特徴があります。女性ホルモンの刺激により病状は進行するため、治療しない限り閉経まで増大し続け、症状は悪化します。
子宮腺筋症の原因
現時点では、子宮腺筋症の原因は解明されていません。ただし女性ホルモンのエストロゲンに子宮腺筋症を進展・増悪させる作用があることは判明しているため、何らかの関係があるとされています。また出産や流産、子宮内膜症も子宮腺筋症に関与しているとされています。
子宮腺筋症の治療
軽度の子宮腫大で症状が軽い場合は、閉経により症状がなくなることもあるため、経過観察とします。
一方、月経困難や過多月経などの症状が強い場合や、子宮の腫大が高度な場合には治療が必要です。
薬物療法
薬物療法では、対症療法として鎮痛剤が使用され、子宮がそれほど大きくない場合には黄体ホルモン剤(ディナゲストやミレーナ)の併用も考慮されます。貧血がある場合は鉄剤が使用されます。
薬物療法での根治は難しいですが、早期に閉経が予想される場合は対症療法やGnRHアゴニストの投与で経過を観察することもあります。
手術
症状が強く、40歳代後半までの年齢であれば、根治的治療として開腹手術や腹腔鏡手術による子宮全摘術が検討されることもあります。
卵巣は異常がなければ原則として残します。限局性の腺筋症で妊娠希望がある場合は、腺筋症病巣を取り除く核出術が行われることもありますが、妊娠時の子宮破裂リスクがあります。
過多月経に対しては、マイクロ波子宮内膜アブレーション(MEA)や子宮動脈塞栓術(UAE)が有効とされています。