妊娠しにくい「不妊」とは
どんな状態?
健康な男女が避妊をせずに1年間性交しても自然に妊娠しない状態を、不妊と考えます。不妊の原因は様々ですが、加齢もその原因の1つです。男女ともに、加齢に伴って妊娠する確率は低下します。近年では晩婚化が進み、男女ともに子供を望む年齢が高くなっていることもあり、不妊で悩む方が増えています。
妊娠しにくい人の特徴
年齢が35歳以上
男女ともに、加齢に伴って妊娠する力は低下します。女性の妊娠率は35歳頃から低下し、40歳を過ぎると急速に低下します。男性も35歳頃から徐々に精子の数や運動率が低下します。
月経異常がある
月経の周期が39日以上と長かったり、24日以内と短かったりする場合、排卵をしていないことが多いです。また月経の量が極端に多かったり長かったり(8日以上)する方は、子宮筋腫で子宮の内腔が変形している可能性があります。反対に月経の量が極端に少なかったり期間が短かったり(2日以内)する場合も、うまく排卵できていない可能性があります。
生理痛が重い
生理痛が重い場合、不妊の原因となる子宮内膜症の可能性があります。子宮内膜症は、子宮内膜が卵巣や卵管などにできるため、経血の排出がうまくいかずに、子宮内に溜まった血液が他の組織と癒着することで生理痛が重くなります。
性感染症や開腹手術などの既往
クラミジア感染症を治療しないまま放置していると、卵管に炎症が広がり、卵管が閉塞する可能性があります。また、過去に虫垂炎、帝王切開、子宮外妊娠、腹膜炎による開腹手術を経験した場合、手術の後遺症として子宮頚管の癒着や卵管が閉塞するケースがあり、妊娠しづらくなります。
適正体重を保てていない
無理なダイエットで体重減少性無月経になったり、太り過ぎで代謝異常から無排卵になることがあります。BMIが18.5以上25未満が適正体重とされていて、男女ともに適正体重を維持することが望ましいとされています。
喫煙習慣やアルコールの過剰摂取
男女ともに、喫煙や受動喫煙、アルコールの過剰摂取は不妊の原因になることがあります。
妊娠しにくい原因
女性側の原因
排卵因子
規則的な月経がある女性は、月経の約2週間前に排卵が起こります。排卵とともに女性ホルモンの分泌量が変化し、子宮内膜は妊娠の準備を開始します。妊娠が成立しなければ子宮内膜は剥がれ落ち、月経が始まります。しかし極端な月経不順の女性は、月経のような出血があっても排卵していないことがあり、不妊の原因となります。排卵が起こらない原因としては、甲状腺疾患や極度の肥満や体重減少、ホルモンバランスの異常をきたす多嚢胞性卵巣症候群などがあります。排卵の有無は基礎体温を記録すると分かります。
卵管因子
卵管は受精卵が子宮に戻るための道です。卵管が炎症を起こして詰まっていると、妊娠は成立しません。クラミジアなどの性感染症に感染したことのある方は、無症状でも卵管が詰まっていることもあります。また、子宮内膜症の場合、卵管周囲の癒着が起きて卵管がつまるケースもあります。
頸管因子
排卵が近づくと頚管粘液の量が増加し、精子が子宮内に進入しやすくなります。頸管粘液の分泌量が少なかったり、排卵後も精子が進入できない性状だったりすると、妊娠しにくくなります。
免疫因子
精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ女性は、子宮頸管や卵管の中で抗精子抗体が分泌されると精子の運動性が失われ、精子が卵子に到達できず、妊娠に至りません。
子宮因子
子宮筋腫や子宮の形態異常により子宮内膜の血流が悪かったり、過去の手術や炎症による癒着があったりすると、子宮内に到達した受精卵が着床するのを妨げ、妊娠に至りません。
男性側の原因
造精機能障害
精子の数が少なかったり運動性が悪かったりすると、妊娠しにくくなります。精索静脈瘤で精巣内の温度が高くなっていると、精子の数や運動性が低下しますが、造精機能障害の約半数は原因不明とされています。
精路通過障害
作られた精子が射精するまでの経路に異常があると、精子が出ないため、妊娠に至りません。
性機能障害
勃起障害(ED)や射精障害などが原因で、性交するのが難しく、妊娠しにくくなります。一般的にはストレスが原因と考えられていますが、糖尿病などの生活習慣病が原因の場合もあります。
加齢による影響
男女ともに、加齢に伴って妊娠する力は低下します。女性は30歳を過ぎると自然妊娠の確率が減り、35歳を過ぎると著しく低下します。一方で、男性の場合は35歳頃から徐々に精子の質の低下が起こります。
妊娠しにくい人の検査・診断
基礎体温の測定
卵巣機能が正常に働いているかを確認する方法として、基礎体温の測定があります。生理が始まってから排卵までは低温相で、排卵後に高温相になります。 排卵障害がある場合は基礎体温が乱れるため、婦人科を受診する時にはあらかじめ基礎体温を測定しておきましょう。
ホルモン検査
生理になると、脳下垂体から卵巣を刺激するホルモンが分泌されて卵巣の卵胞が発育します。卵胞からは、女性ホルモンである卵胞ホルモンが分泌されます。 排卵が起きるために必要なこれらのホルモン値を適切な時期に採血して調べます。 また、卵巣からのホルモンだけでなく、脳下垂体からのプロラクチンや甲状腺ホルモンも調べることが望ましいです。
超音波検査
超音波プローべ(探触子)を腟の中に挿入し、子宮の形や子宮内膜の厚さなどを診断します。なお、子宮内膜の厚さは排卵期には8mm以上になります。 また、卵巣内の排卵の準備状態(卵胞計測)も行い、排卵のタイミングを調べます。
子宮卵管通過性検査
子宮に空気や生理食塩水を注入して、卵管の通過性を確認します。
頚管粘液検査、性交後試験
排卵期には子宮の出口から頚管粘液が分泌され、精子を子宮内に誘導します。分泌量が少ないと、精子が子宮内に入れなくなります。 性交後試験は排卵期に性交を行い、頚管粘液の中にどの程度精子が入っているかを確認する検査です。頚管粘液の中に精子が入っていても、動きが悪く量も少ないと不良と判定されます。
精液検査
数日の禁欲後、マスターべ−ションで精液を採取します。精液量は1.4ml以上、数は1ml当たり1,400万個以上、運動率は42%以上、精子正常形態率4%以上が基準値です。 数が少なかったり運動率が悪かったりすると、人工授精などの治療が必要となります。
不妊治療について
「なかなか妊娠しない」「これから妊娠にむけて、どんなことをしたらいいのか」といった妊娠に関するお悩みはありませんか?当院では下記の方法で不妊治療を行っています。妊娠・不妊に関するご相談は、『生殖医療専門医』である当院にお任せください。
タイミング法
基礎体温や超音波検査によって卵胞の状態から排卵日を予測し、性交のタイミングを合わせる方法です。不妊治療はまずこの方法から始めることが多いです。
薬物療法
排卵が起こらない女性に排卵誘発剤を使用し、卵胞の発育・排卵を促す方法です。
排卵誘発法には排卵誘発剤の内服と注射の2通りの方法があります。
内服薬による排卵誘発
ホルモンの中枢である視床下部-下垂体に働きかけて排卵が起こるようにする薬です。比較的軽症の排卵障害に用いられます。内服薬を生理3~5日目から5~7日間内服しその後超音波検査で卵胞の発育を確認します。
よく用いられる薬としては、以下のものがあります。
(1)クロミフェン
(製剤名はクロミッド)
視床下部を通じて脳下垂体に働きかけ、FSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌を促進し卵胞成長を促します。
排卵率の上昇が見込めるとともに、発育卵胞数を増加させることによる妊娠率が向上しますが、使用を続けると子宮内膜の発育が抑制されたり、排卵期の頸管粘液が減少するなどの副作用があります。
また、クロミッドとともにプレドニン(ステロイド)や、メトホルミン(インスリン抵抗性改善薬)を併用すると、クロミッド単独では排卵しない場合でも排卵することがあります。
(2)シクロフェニル
(製剤名はセキソビット)
クロミフェンに比べ排卵作用はやや劣りますが、頸管粘液の分泌抑制が少ないというメリットがあります。排卵障害が比較的軽い場合や、排卵を早めたい場合などに用いられます。
(3)アロマターゼ阻害剤
(製剤名はフェマーラなど)
エストロゲンの合成に関わるアロマターゼという酵素の阻害剤で、排卵誘発に応用されています。子宮内膜の発育が抑制されたり頸管粘液が減少したりする副作用が少ないとされています。
注射による排卵誘発
排卵誘発剤の内服薬で効果が認められない場合は、hMG/rFSHなどの注射で排卵誘発を行います。
直接卵巣に働きかけて排卵をおこすので、内服薬と比較すると排卵誘発は効果も高く、重度な排卵障害の場合でも排卵誘発率の改善を見込めます。
しかし、卵巣の反応が強すぎた場合、多胎妊娠を起こしたり、卵巣過剰刺激による卵巣過剰刺激症候群(OHSS)発症の可能性があるため、その使用量は卵巣の反応を超音波検査で確認しながら厳重に行います。
排卵誘発による注意すべき副作用
(1)多胎妊娠
多胎妊娠(双子、三つ子)は単胎妊娠に比べて早産になったり妊娠高血圧症候群を発症したりするリスクが高くなります。安全で健康な妊娠出産を目指すためにはできるだけ単胎妊娠を目指すことが重要です。排卵誘発剤を用いる場合、必ず1つだけ排卵するようにコントロールすることは難しいですが、できるだけ複数排卵しないように最適な薬剤、投与量を用います。
(2)卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
注射による排卵誘発では、直接卵巣を刺激し排卵をおこすため、多数の卵胞が発育すると過剰な排卵が起こり、卵巣が大きく腫れたり、腹腔内に水がたまったりします。OHSSが起こらないようにするには、必要最小限の排卵誘発剤を用い、こまめに超音波検査を行って卵胞の発育状態をチェックします。またOHSSの兆候が現れた場合は入院の上早期の治療で重症化を予防することが望ましいです。
人工授精
人工授精 (AIH:Artificial Insemination of Husband)とは、排卵の時期に合わせて、洗浄濃縮したパートナーの精子を子宮内に注入する方法です。自然妊娠では膣に精液が入り、そこから精子が子宮に到達するのに対し、人工授精は直接子宮に精子を注入しますので、卵子と精子が出会う確率が上がります。
自然妊娠との違いは、精子が入る過程だけで、受精から妊娠までの過程は全く同じであるため、自然妊娠に近い方法です。
人工授精の適応
- 精液検査で異常(精子減少症や精子無力症)がある場合
- 性交障害
- タイミング療法3-6周期以上行っても妊娠が成立しなかった場合
排卵前日~当日に行います。方法としては
- 精子を容器に採取します。
- 精液中の雑菌などを取り除くために洗浄しさらに濃縮してから子宮内に注入します。
- 内診台で約5分間安静にしていただきます。
- 抗生剤や黄体ホルモンの飲み薬を使用していただきます。
人工授精後は、自宅などでの安静は特に必要なく、通常の生活をしていただいてかまいません。
2022年4月から人工授精も保険適用となりました。年齢・回数制限はありません。
手術
子宮周囲の癒着や子宮内膜症、子宮筋腫、卵管閉塞などの不妊の原因を取り除くために手術を行う場合もあります。
また、多嚢胞卵巣症候群(PCO)で、排卵誘発剤に反応不要の場合、腹腔鏡を使い、レーザーや電気メスで卵巣に小さな多数の穴を開け、排卵しやすくする手術(腹腔鏡下卵巣開孔術)をすることがあります。自然な排卵の回復が期待できますが、効果が長く続かないという欠点もあります。
妊娠しにくいことに
関するよくある質問
一般的な妊娠確率はどのくらいですか?
健康な男女が避妊をせずに性交をした場合、1周期で妊娠する確率は15~20%と言われています。
約半年で妊娠する計算になりますが、妊娠確率は年齢や健康状態、性交のタイミングのずれで大きく異なります。一方、妊娠しにくい不妊症の方の場合、タイミングを合わせても5%前後と言われています。
ピルを服用していると妊娠しづらくなりますか?
ピルの服用中は排卵が抑制されますが、服用を中止すれば速やかに通常の状態に戻るため、長期間服用を続けても妊娠しづらくなることはありません。
また、ピルの内服は不妊の原因となる子宮内膜症の発症率を低下させる可能性があると考えられているため、将来的な妊娠には有利に働く可能性があります。