不育症とは
不育症とは、妊娠はするものの、2回以上の流産あるいは死産により生児を得られない状態を指します。具体的には、流産が2回、または流産1回と死産(妊娠12週以降に死亡した胎児の出産)が1回あれば不育症と診断されます。また、3回以上連続して流産に至る場合を“習慣流産“をといいます。
流産自体は決して珍しいことではなく、一般に妊娠が成立しても約15%は流産になるとされています。また、母親の年齢が高いほど確率も高くなることが分かっており、2回連続で流産になることも珍しくありません。不育症は5%の頻度で発生するとされており、2回連続で流産をした人や、原因不明の妊娠10週以降の子宮内胎児死亡を経験した人は、検査を受けることがすすめられています。
不育症の原因(リスク因子)
妊娠初期の流産の原因の大部分(約 80%)は、胎児(受精卵)の偶発的な染色体異常とされていますが、流産を繰り返す場合には、その他に、流産のリスクが高まる「リスク因子」を有することがあります。
不育症のリスク因子には、以下のようなものがあります。
夫婦の染色体異常
夫婦のどちらかが均衡型転座(染色体が入れ替わっているが遺伝子に過不足がない状態)を持つ場合、夫婦ともに健康でも卵や精子の染色体に過不足が生じることがあり、それが流産の原因となることがあります。
子宮形態異常
子宮の形状によっては、受精卵の着床が妨げられたり、胎児や胎盤が圧迫されて流産や早産になったりすることがあります。この形態異常には、先天的なもの(双角子宮、中隔子宮など)と、子宮粘膜下筋腫などの後天的なものがあります。
内分泌異常
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病などの病気があると流産のリスクが高まります。妊娠前から妊娠中にかけて、これらの状態を良好に保つことが重要です。
凝固異常
血液中の凝固因子(血液を固めて血を止める働き)に異常があると、血栓が作られやすく、流産や死産を繰り返すことがあります。
凝固因子異常の原因は、抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症などの疾患があります。
母体の高齢化
年齢とともに卵子も老化し、染色体異常が起こりやすくなるため、母体の高齢化は流産のリスクを高めます。
原因不明
不育症は、原因やリスク因子が分からないことが多く、約60%はリスク因子が分からない状況です。
厚生労働科学研究班による研究報告では、上記の不育症のリスク因子の頻度は
- 子宮形態異常 7.8%
- 甲状腺異常 6.8%
- 夫婦いずれかの染色体異常 4.6%
- 抗リン脂質抗体陽性 10.2%
- 第XII因子欠乏症 7.2%
- プロテイン S 欠乏症 7.4%
- プロテイン C 欠乏症 0.2%
でした。残りの 65.3%はリスク因子不明とされています。
不育症の検査
染色体検査
血液検査によってカップル双方の染色体検査を行って、染色体の数や状態に流産を引き起こしやすい異常がないかを調べます。
画像検査
不育症は、子宮の先天的な形態異常によって引き起こされることがあります。そのため、経腟超音波による画像検査を行います。異常が疑われれば、子宮鏡検査やMRI検査などを行うこともあります。
内分泌異常の検査
甲状腺機能異常や糖尿病など、流産のリスクを高める病気がないか、血液検査で調べます。
甲状腺の機能が働きすぎて起こる甲状腺機能亢進症、逆に働きが低下して起こる甲状腺機能低下症などがあります。いずれも流産に影響することが考えられます。
また、糖尿病は、流産・死産の増加にかかわっていると考えられます。
血液凝固異常の検査
血液が固まりやすくなる異常がないか、血液検査で調べます。
血流が悪くなり、胎盤に血栓ができることで、胎児の発育不全や胎盤の異常が引き起こされ、流産・死産につながることがあります。
抗リン脂質抗体
抗リン脂質抗体という自己抗体が血液中に存在し、血液中にできた血栓がつまる血栓症や、流産・死産などの妊娠合併症を引き起こす自己免疫疾患です。
血液検査で調べます。
不育症の治療
- 数ある原因の中でも、抗リン脂質抗体症候群に対しては、妊娠中に血液が固まりにくくするアスピリンやヘパリンなどによる薬物療法を行います。
- なお、不育症の原因の1つであるカップルの染色体異常は、治療することはできません。
- 子宮形態異常のうち中隔子宮に対しては、子宮鏡を用いた中隔切除術が行われていますが、その効果についてはまだ明らかになっていないところもあります。
- 胎児の染色体異常を繰り返す症例に対しても、着床前遺伝学的検査が行われています。しかし、これも出産率の改善についてははっきりしていません。
不育症に関するよくある質問
不育症の方は妊娠や出産をすることが出来ますか?
不育症の方の80%以上は出産することが可能だと言われています。
不育症の多くは偶然の胎児染色体異常によるもので、特別な治療を必要としないため、安心して妊娠できる環境が何より大切です。
子宮形態異常や血栓症のリスクが高まる抗リン脂質抗体症候群、一部のプロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第XII因子欠乏症などの場合は、治療が必要になることがあります。
不育症の治療や検査には保険適用や助成金の制度はありますか?
不育症の一般的な検査や治療は、ほとんどが保険適用されています。ただし、保険適用されない研究段階の検査や治療もありますので、当院にご確認ください。